飯豊 実川 前川本流
私が山岳会に入った当初の目的は、独りでは行かれない沢を遡行するパートナーを得ることだった。
入会後に始めた他のジャンルの登山に熱心になっていたこともあり、大きな沢には数えるほどしか行っていない。
しかし、今でも、奥利根、飯豊、朝日の沢を一本づつで良いから登りたい、という野望を持ち続けている。
今回、比較的早い時期から人見氏を口説いて、夏の休暇を合わせ、飯豊の沢の計画をした。
飯豊本山を含む主稜線の南側を大きく集水する実川の前川。最も行きたかった沢だ。
日程
2000 08/03 - 06 人見、金子
8/2 (水) 東京 (新幹線) 長岡 ()
8/3 (木) 日出谷 (タクシー) ゲート (車便乗) 湯の島小屋 (歩行)
オンベ沢出合い (遡行) 松ノ木穴沢出合 (泊)
8/4 (金) 虹吹ノ滝上ゴルジュ左岸巻(泊)
8/5 (土) 飯豊山神社 (泊)
8/6 (日) (歩行) 川入
入山
タクシーでゲートまで入る。ダム工事をしているため、トラックが頻繁に通る。
天気は上々だ。途中、ラッキーなことに、釣り師の車に拾ってもらい湯の島小屋まで楽々到着する。
ゲートに鍵は掛かっていないので、適当な工具を用意すれば開くらしい。
ダムができている。踏跡を使ってアシ沢出合に下りた。
バックウォーターなので水深はあるが、川幅が思ったほど広くはないので少し拍子抜けする。
「水勢が強いというが、上の廊下よりもずっと規模が小さい」と甘い考えを持った。
靴を濡らしたくなく、ここで遡行の準備をすることにした。ブヨが沢山まとわりついてくる。
虫除けをスプレーする。効き目はあるようだが、実に嫌な匂いがして目が痛くなる。
登山道は少し上を通っているようで登り返す。暫く平らなブナの森の中を歩いてから沢に下りる。
遡行初日
少し進むと淵が現れるが、水が滔々と流れていて泳げそうな感じではないし、
奥も良く見えないので、渡渉して対岸を小さく巻く。
この最初の渡渉は股くらいだが、流れの強さに体がグラついてビビる。
巻きながら見ると、淵の奥にはロープが下っていて泳げば取り付けるようだ。
しばらく行くと行きづまる。一回余分な渡渉をしてしまった分、対岸に渡りかえさなくてはならない。
渡渉点はなく、泳ぐしかない。覚悟を決めて瀞を泳ぎ渡る。水が冷たくて、出た後20 秒くらい体が硬ばってしまう。
途中、下降してくる釣り師とすれちがう。
皆首まであるヱットスーツを着ている。人見さんと、「あれなら泳ぎも平気かもしれない」と話す。
その後も、出てくる淵はどれも水の流れが激しく、殆ど巻きになってしまう。
途中、下降点を捜して上から偵察していると、水が茶色に見えて、あれっと思う。
懸垂下降してみると、沢は茶色の濁流になっている。
先に下りた人見さんは、石がゴロゴロいう音がしていた、と言う。
天気は晴れなので、雪渓でも落ちたのかと、逃げられるように準備しながら1時間ほど川を警戒していた。
10cmくらい水深が下ったが、あまり状況が変わらないので、行くことにする。
しばらくすると行きづまり、人見さんが渡渉しようと言う。
あいかわらず透明度0なので、私はヤブを巻いたほうが良いと言って渋ったのだが、自分が行くというので確保する。
流心に入ると見る間に体が浮き、ロープをたぐろうかと思った瞬間、四這い状態で止まる。
中洲になっていたようだ。
松ノ木沢出合は平坦で、時既に 5:00 をまわっていたので泊まることにする。
今日は全然捗らなかった。少し先の大きなプールが難しいということなので、二人で工作に行く。
プールはなかったが、流れの激しい淵になっていてへつらないとならない。
手がかりにハーケンを1本打って戻る。この日は上流で雨が降ったかもしれないと考え、ちょっと気に掛けながら寝る。
遡行2日目
翌朝は朝
靄のなか出発する。天気は上々。暫く行くと雪渓の残骸を川岸に見る。下追流沢から先はまた淵が続く。
この日最初の泳ぎで、人見さんが水を大分飲んでしまい、2回目は私が先に行く。
魚止めの滝はスカイフックを使って苦労して登るが、落ち口の水流が強すぎて駄目で、結局そこから巻く。
段々曇ってきた。
御西沢出合には虹吹きの滝がかかる。水量豊富で立派だ。右を巻きにかかると、雨が降ってくる。
懸垂しようと下を偵察すると、下のゴルジュは白く水しぶきをあげている。
雨も止みそうにないのでそのまま高巻く。行く手にスラブが出てきて上に追い上げられる。
痩せた尾根上まで出てしまい、途中から斜面に下りてトラバースして行く。雨足が強くなってくる。
途中、3畳くらいの岬状の平坦地があった。
隣りのルンゼには雨水が流れていて水が確保できるし、時刻も6:00 をまわっているので泊まることにする。
ウドの大木が茂っており、整地すると一面ウド臭がする。日が暮れると遠くから雷鳴が聞こえる。
上流では雷雨のようだ。今日も全然捗らなかった。
持参したどの記録と比較しても進捗が悪いので、私は少し弱気になって、もしこの後も苦戦するようなら、
上追流沢からエスケープすることを提案する。
私は月曜日から海外出張なので、どうしても日曜日中に帰宅しないとならない。
遡行3日目
天気は高曇り。このゴルジュを巻ききったところから上流を眺めると雪渓になっている。
私は方向間隔が狂ってしまい、何故かこれが支沢のような気がして、人見さんの説明を受けて納得する。
汚い雪渓上に懸垂で下りると、これかはずっと雪渓歩きかなと楽観的になる。
が、100mほどで雪渓は切れ、またゴルジュになる。
ところどころ残っている雪渓を潜ったり、上がったりたりしながら進む。
やがて、上追流沢が雪渓の下に入ってくる。今日抜けられることを確信したので、そのまま本流を行くことにした。
30m の滝(だったと思う)の左壁は2 ピッチの岩登りになる。トラバースを終えて確保していると、雨が降ってくる。
にわかに空は黒くなっている。ロープを握ったままであわてて雨具を着ける。
しばらく進むと雪渓が続くようになり楽になるが、雨がいよいよ強くなって冷え冷えする。
稲光と雷鳴が殆ど同時で、至近距離にガンガン落ちていているような様子に危険を感じ、雪渓の辺に下りて様子を見たりした。
やがて雪渓が切れて滝が落ちているのに出会う。真茶色の水が爆音を立てて落ちていて思わず息を飲む。
滝から噴き出した水は雪渓の穴に収まりきらず、雪渓の上を茶色い川となって流れていた。
もう渡渉などは考えられない。幸い、ここから上はもう完全に雪渓を歩けば良くなるが、ますます雷が怖くなる。
隠れるところがないので、低い岩壁に寄ってツェルトを被って休んだ。
最後の滝も雪渓を割って落ちているが、既に沢は鉄砲水のようになっていて、見ているだけで恐しい。
左の岩を潅木を頼りにトラバースする。
私はかなり気が滅入っていたが、人見さんは元気に懸垂下降の準備をしていて感心する。
少し上の雪渓を目指して泥壁をななめに下降していく。
待ちながら流れを見ていると、小さな車ほどの雪ブロックが雪渓から流れ出す奔流に洗われている。
思わず吸い込まれそうだ。下降器をセットしてふと見ると、ブロックはなくなっていた。
この上は真っ直な雪渓で、稜線が遥か上に被さってくるように見える。
濡れて重くなったロープを交互に持ちながらひたすら登る。どん詰まりを右に曲がるとほどなく雪渓はなくなる。
雨も小降りになり夕暮れが近い。後は登るだけだ。ほっとする。
途中水量の多く見える左に入り掛けるが、右のほうが楽そうなので戻る。
グズグズの崩壊を登っていると稜線を人が歩いているのが見えた。達成感が湧いてきた。
ほどなく、小屋の少し三国岳方面の縦走路に出た。空の端が少し紅く染まり始めている。
小屋でビールを飲む。
小屋番の言うには、「今年は雪が多かったために、この時期になっても水量が減らず、地元の山岳会では遡行を延期している」そうだ。
私達は初めてなので水量の多少は判断が付かないが、写真と比べると多い感じである。
一方、雪渓は他の記録のときよりも明らかに少ないようだった。
この一見矛盾する状況はどう解釈すれば良いのだろうか。
雪が多ければ、雪渓が大量に残っていて、しかも融雪のため水量が多い、というのが筋のように思うのだが。
小屋で食事を作ってもらい、廊下に場所を開けてもらって寝た。
下山
次の日は真夏の太陽の下、縦走路を下る。盛りの花の写真を取りながら、15年前くらいに縦走したときのことを思い出した。
川入では、バスにタッチの差で間に合わなかった。
他の写真
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